あらすじ
大正十二年。
近代化の波と古き良き伝統が混ざり合う、この時代。ある政略結婚によって、二人の運命は静かに動き出した。
織物業の名門に生まれた桐嶋春暢。家名という重圧の中で、彼は自分の感情を押し殺し、ただ義務を果たすことだけに生きてきた。冷徹で近寄りがたいその態度の裏には、孤独が潜んでいる。
一方、没落寸前の華族の家に生まれた白雪亜紀。愛する家族を守るため、彼女は愛のない結婚を受け入れた。心優しく、夢見がちな彼女にとって、その決断はあまりにも切ないものだった。
顔も知らない相手との、ぎこちない共同生活。冷たい沈黙が支配する屋敷で、二人はただ時間を重ねていく。
しかし、柔らかな光を放つ提灯に照らされた祭り、異国の香りが漂うモダンな喫茶店、そして交わされる些細な手紙――大正という激動の時代が、二人の距離を少しずつ縮めていく。
変わりゆく街並みの中で、彼らは気づく。運命とは、ただの偶然ではないのだと。
日常の何気ない瞬間にこそ、絆は芽生え、決して解けない結びつきへと変わっていく。
これは、夫婦になったあとに愛を知った、不器用な二人の物語。