あらすじ
路地裏の『喫茶・月讀(つくよみ)』には、SNSで「氷の貴公子」と神格化される看板バリスタがいる。
学校では完璧な笑顔を振りまき、店では宗教画のような静謐さでネルドリップを握る――そんな漣(れん)の姿に、今日も多くの客がレンズを向ける。
けれど、幼馴染の真白(ましろ)だけは知っている。
彼が誰もいない店内で、一滴の湯量に絶望し、真剣にコーヒーと向き合う職人としての横顔を。
そして、彼が誰のためでもない、自分自身の聖域を守り続けていることを。
ゲリラ豪雨に襲われた、ある日の閉店後。
二人きりになった店内で、漣は「看板男子」の仮面を脱ぎ捨てる。
「真白だけだよ。僕の作るものを、ちゃんと見てくれるのは」
差し出されたのは、試作のコーヒーシュガーを落とした、一杯のカプチーノ。
それは、世界中の誰にも教えたくない、甘くて少しだけ苦い、秘密の味がした。
「看板男子」な幼馴染との、雨の日から始まる至福のショートストーリー。