あらすじ

初夏から夏へ移るころ、相沢湊は再び春口へ戻る。 霧のホームで父が半歩ずつ遅れながらも海側を追っていた可能性を知ったあと、湊の関心は、その先――父が最後に何を見ようとしていたのかへ向かい始める。 篠原の調べで、父が霧の朝のあとに向かった可能性のある海側の経路の先に、春口の外れの岬へ通じる古い道があったことが分かる。 その岬は、かつて港へ入る船も、沖へ出る便も、遠くの島影も見渡せる土地であり、町の者たちが“出ていくものを最後に見る場所”でもあった。 一方、汐里は母・澄江の残した断片の中に、その岬の名が何度か記されているのを見つける。 父だけでなく、澄江や千紘にとっても、その場所は何かを見届けるための場所だったのかもしれない。 湊と汐里が岬を訪ね、土地の古老や古い記録を辿るうちに、見えてくるのは、千紘が“ただ去った少女”ではなく、去る直前まで誰かを気遣い、誰かの遅れを先に受け入れていた可能性だった。 また父も、千紘を追うことだけでなく、最後には「見送れなかったことを見届け直す」ためにその岬へ立っていたのではないかという輪郭が浮かび上がる。 夕凪の岬では、風が止まり、海も一時的に動きをなくす。 その静けさの中で、湊は初めて、父をただ理解しようとするのではなく、父から渡された“見届ける責任”のようなものを自分の人生へ引き受け始める。 『夕凪の岬』は、春口という町のはずれにある見晴らしの場所を舞台に、見送りきれなかった過去を、ようやく別のかたちで見届け直す物語である。

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小説を読もう2026/06/10
  • 現在の作品潮待ちのレール ― 夕凪の岬 ―