あらすじ
「そんな古臭いエプロン、捨てろ」——婚約者の裕也から浴びせられた心ない言葉。色褪せた木綿のエプロンは、亡き祖母が遺した世界でたった一つの形見だった。野花と小鳥が踊る手刺繍。『絶対に手放さないで』という祖母の最期の言葉。それでも裕也は容赦なく、私からエプロンを奪い取った。両親を亡くし、祖母にも先立たれ、何も持たない私。一流企業勤務の婚約者に選ばれただけで幸運だと、そう思い込もうとしていた。けれど——失くしたはずのエプロンが思わぬ形で戻ってきた時、運命は大きく動き出す。祖母の刺繍に隠された秘密。それは莫大な遺産の鍵であり、六十年の時を超えた愛の物語だった。「返してくれ」と手のひらを返す裕也。「守りたい」と手を差し伸べてくれた人。私が選ぶべき未来は、もう決まっている。これは、捨てられた形見が紡いだ愛と再生の物語。本当に大切なものは何か——祖母が命をかけて教えてくれた、人生を変える真実がここにある。