あらすじ
前世、法医毒物学者として無数の変死体と向き合ってきた優蘭(ゆうらん)は、目覚めると後宮の下級侍女・紅玉として生きていた。
この世界では、後宮内での不審死は「呪詛」として片付けられ、真相は闇に葬られるのが常だった。だが紅玉には見えていた——死体の斑点の広がり方、嘔吐までの時間、痙攣の周期。それらはすべて毒物が体内で分解されていく"速度"が刻んだ記録に他ならない。
寵姫たちの間で起きる原因不明の急死事件。紅玉はその症状の進行を数式のように解析し、「毒が回るまでの時間」から犯行がありえた時間帯を一人に絞り込むという、後宮の誰も知らない"科学捜査"で真相に迫っていく。
しかし事件を追うほどに見えてくるのは、単純な悪意ではない。かつて姉のように慕い合っていた寵姫同士が、寵愛を奪い合ううちに愛情を憎悪へと反転させていった――不可逆反応のような、後戻りできない関係の結末だった。
紅玉は「誰が毒を盛ったか」だけでなく、「なぜ、かつての絆がここまで壊れたのか」という、化学式では解けないもう一つの謎に飲み込まれていく。