あらすじ
「くふふ。悪いこと、してませんよね?」
小生田富雄、四十二歳。
ブラック企業に勤める平社員。
黒シャツ、薄いサングラス、低い声。
そして、困った時に漏れる不気味な笑い声。
「くふふ」
本人はただの善良なおじさんである。
しかし周囲からは、どう見ても裏社会の人間にしか見えない。
ある日、富雄は子供の頃からできなかった指パッチンに成功する。
――パチン。
その音を聞いたパワハラ上司は硬直し、虚ろな目で会社の不正を語り始めた。
残業代未払い。
数値改ざん。
下請けいじめ。
備品の私的流用。
どうやら富雄は、催眠術師として覚醒してしまったらしい。
だが本人に、悪人を支配する気はない。
正義の味方を名乗る気もない。
ただ、目の前で困っている人を放っておけないだけ。
見た目は黒幕。
中身は善人。
能力は催眠。
これは、怪しすぎる催眠おじさんが、本人の自覚がないまま悪人たちを震え上がらせ、世の中を少しずつ良くしていく物語である。