あらすじ
アストリア帝国北方――人々から「悪徳辺境伯」と恐れられる男がいた。
その名は、アルベルト・フォン・グランディア。
冷酷非情、容赦なき統治者、帝都の予算を湯水のように使い潰す金食い虫。帝国中で囁かれる悪評とは裏腹に、彼が治める北方は幾度となく厳しい冬を乗り越え、領民は飢えることなく暮らし続けていた。
彼は誰よりも領地を愛していた。
誰よりも領民を守ろうとしていた。
だからこそ、自分自身を顧みることはなく、家族と食卓を囲む時間さえ惜しみ、休息も睡眠も削りながら、終わることのない執務へ身を捧げ続けていた。
しかし、その生き方には決定的な欠落があった。
家族を愛していないのではない。
愛し方を知らなかったのだ。
ある日、過労の末に意識を失ったアルベルトは、日本で生きていた前世の記憶を取り戻す。そして、自分が生きるこの世界が、かつて夢中になって遊んでいたゲーム『王冠を継ぐ者たち』の世界であり、自らが勇者に討たれる運命を背負った"悪徳辺境伯"であることを知る。
ゲームでは、彼は家族を顧みず、家臣を酷使し、帝都から孤立し、最後には領民からも理解されないまま勇者の手によって討伐される存在だった。
だが、その結末を知ったからこそ、アルベルトは決意する。
悪徳辺境伯という評価は変えなくていい。
帝都に嫌われても構わない。
勇者と敵対する未来すら避けられないかもしれない。
それでも、今度こそ家族を守りたい。
これは、最強の辺境伯が世界を救う英雄譚ではない。
国を支え続けた一人の男が、領主としての責務と父親としての在り方の狭間で迷い、失われるはずだった未来を変えるために戦う物語。
悪徳辺境伯と呼ばれた男が、本当の意味で「家族の父」となり、運命そのものへ抗う、継承と再生の長編ファンタジーである。