あらすじ
二日酔いの頭で目を覚ましたとき、俺は雨に濡れた泥の上に倒れていた。背中には、冷たく硬いものが当たっている。濡れきったシャツ越しに、寒気が骨の奥まで染み込んできた。
目を開けると、雨水が額を伝って眼に入り、視界がひどく滲んだ。目の前には黒い墓石が立っていた。山林の隙間から差す青白い月明かりの下で、俺はそこに刻まれた文字を読んだ。
森下翠。
赤城茜。
篠原詩織。
その下に、さらに小さな字があった。
冥婚の花婿 佐伯悠斗。
俺の名前は死者として刻まれていなかった。だが、その三つの名前は、全員、かつて俺が付き合っていた女たちだった。
翠は大学時代に知り合った女だった。おとなしく、俺の言うことなら何でも聞いた。妊娠したとき、俺は面倒になり、彼女に人工妊娠中絶をさせた。そのあと実家に戻ったと聞いたきり、連絡は取っていない。
茜は広告会社で働いていたころに付き合っていた、金持ちの娘だった。気は強かったが、俺には気前がよかった。俺は彼女から金をだまし取り、競馬とネットカジノで全部すった。その金は、本来なら彼女の父親の入院費、差額ベッド代、保険適用外の治療に使うはずのものだった。
詩織は文学部出身で、陰気で、繊細で、いつも黒いノートを抱えていた。別れたあと、俺は彼女のプライベートな写真を匿名掲示板とSNSに流した。詩織は大学を辞め、精神科病棟に入ったことがあると聞いた。
ポケットの中で、スマホが震えた。
画面の白い光が、墓石の上にぼんやり落ちる。
匿名のメッセージには、三行だけ書かれていた。
「おめでとうございます。地獄の婿選びゲームへようこそ」
「七日以内に、本物の怨霊を見つけてください」
「間違えた場合、あなたは彼女たちの夫として、永遠に土の中へ埋められます」