あらすじ
祖母の通夜の翌朝、主人公は母の実家で異変に気づく。庭でも神社でも畑道でも、自分が近づくと蝉が一斉に鳴きやむのだ。子供のころにも同じことがあったと近所の美奈子に告げられるが、主人公には覚えがない。祖母の家の二階で見つけた古いカセットテープには、十歳の夏の自分と、美奈子、そして近所の少年・啓太の声が録音されていた。主人公は、蔵の床下に「金色の蝉の抜け殻」があると啓太をだまし、狭い穴に潜らせた。床下の貯蔵穴に落ちた啓太は助けを求めたが、主人公と美奈子は逃げた。祖母は主人公を守るため、啓太は川へ行ったと嘘をつき、事件を隠した。その後、主人公は熱を出し、すべてを忘れていた。
記憶を取り戻した主人公は、夜の蔵へ向かう。床下からは十七年分の蝉の声があふれ、啓太の「見つけた?」という声が聞こえる。翌朝、主人公は警察を呼び、蔵の床下が調べられる。そこから見つかったのは、金色に見える蝉の抜け殻だった。祖母が死んだことで封じられていた記憶と罪が戻り、主人公は東京へ帰る。しかし都会の蝉もまた、主人公が近づくと鳴きやむ。マンションの五階の部屋に戻ると、土などないはずの床下から蝉の声がする。フローリングの隙間には蝉の抜け殻が挟まっており、その割れた背中の奥で、誰かがまだ、出ようとしていた。