あらすじ
旧車専門ライターの相沢ミカ、二十九歳。取材で追っていた「幻のハコスカGT-R」の写真に、幼い頃の自分と祖父が写っていた。
祖父は元レーシングドライバー。十年前に他界した。一度もあの車の話をしなかった。
手がかりを辿り着いた先は、群馬県の山間にある解体屋だった。
村上修、七十歳。無口で目が鋭い。訪問者を歓迎しない男。しかし写真を見せた瞬間、動きが止まった。
「お前、誰だ」
村上はかつて、あのハコスカのS20エンジンを組んだ男だった。チームのみんなは死んだ。パーツは売った。しかしフレームだけは手放せなかった。内側に彫られた文字があったから。
「相沢健一」
祖父の名前だった。
村上は五年かけて、売ったパーツを一人で買い戻していた。誰にも言わずに。ただ、コイツを起こすために。
昭和四十七年、幻のレースで勝った一台のハコスカ。記録には残っていない。でも走った。そして令和に、また息を吹き返そうとしていた。