あらすじ
「お前のような平民上がりに、王家の祝宴は任せられん。──その薄汚い前掛けごと、城を出ていけ」
新任宮廷料理長にそう言い放たれ、宮廷を追放された料理人見習いのカレン。前世は現代日本の老舗料亭で三十年下働きをした料理人だった彼女は、出汁の前で息を引き取り、この異世界の厨房で再び鍋の前に立っていた。
誰もが「ボロ」と嘲笑う、四代分の継ぎ接ぎだらけの前掛け。だが、その繕い目のひと針ひと針に何が縫い込まれているかを、追放した者たちは誰も知らない。
流れ着いた場末の食堂で、カレンは温かな女将や、味音痴で不器用なS級冒険者の竜人と出会い、一杯の汁物で人々の心を解きほぐしていく。
そんな折、王国に異変が。建国以来続いた『祝宴の儀式料理』が機能を失い、国境の結界が弱まり始める。それは、前掛けに込められた“最後の魔法”と深く関わっていて──。
名もなき献身が、温かいまま次代へと受け継がれていく。追放されたお人好し料理人が紡ぐ、心あたたまる異世界グルメ物語。