あらすじ
姉の林優里は、鷹宮家の御曹司の腕に絡みついたまま、自分の婚約者が二階からホールへ続く十八段の大理石の階段を転げ落ちるのを、冷たい目で見下ろしていた。
神代蓮司は車椅子のそばに倒れ、シャツは乱れ、顔色は青白いというより、どこか凍りついたように見えた。年配の執事はそばで顔をこわばらせ、先に彼を助け起こすべきか、それとも主の顔色をうかがうべきか、判断できずにいた。
その場にいる人間の中で、私だけが知っていた。
車椅子の横に倒れているこの男は、神代家に見捨てられた哀れな廃人などではない。彼は神代ホールディングスの議決権五一%を握っている。
前世でも、彼はこうして何も言わずに耐えていた。そして最後には、彼を侮辱した者たちを、一人ずつ深い奈落へ引きずり落とした。
私はシャツの一番上のボタンを二つ外し、裸足のまま階段を下りた。周囲の忍び笑いがまだ消えないうちに、私は蓮司の前にしゃがみ込み、冷えきった彼の指を取って、自分の胸元にそっと押し当てた。
「床は冷えるわ。私の部屋へ行きましょう。脚、温めてあげる」
蓮司の視線が、私の胸元に落ちた。次の瞬間、彼は私の手首を強くつかんだ。
「怖くないのか」
「怖いわ。あなたが、思ったより悪い人じゃなかったら困るもの」
私はまっすぐ彼の目を見返した。