あらすじ
あの夜、居酒屋の引き戸が開くまでは、まだ知らなかった。
再会したあなたが、あまりにも愛おしい嘘をつくことも。 そして自分も同じように、ずるくて優しい嘘を重ねることになるなんてことも。
高校時代、オンラインゲームの画面越しに誰よりも深く心を寄せ合っていた「風(ふう)」と「海(うみ)」
しかし、二人の秘密の恋は、立ちはだかる遠距離恋愛への壁によって残酷な終わりを迎えた。
連絡先をブロックし、二度と交わるはずのなかった二人の世界。
それから九年――。
二十六歳になった井上風香は、親友の紹介で訪れた居酒屋で、息の止まるような再会を果たす。目の前に座っていたのは、すっかり洗練された大人の男になった瀬海航太朗だった。
「初めまして、井上風香です」
振られた気まずさと配慮から、気づかない振りの嘘をつく風香。
「初めまして、瀬海航太朗です」
そんな彼女の意図を察し、呼吸を合わせるように穏やかな微笑みを返す航太朗。
スマートフォンの画面に浮かび上がる、冷たい『過去の証明』に胸を締め付けられながら、お互いに本当のことを隠したまま、ふたりは再び同じステージに立つ。
初期化されたはずの真っ白な画面の裏側で、手繰り寄せられていく九年間の未練。
知っているのに、知らない振り。
優しさと執着が織りなす、心理戦の行方は――。
「――どうか、幸せなままで騙されていて」
すべてを清算し、狡猾な牙を隠した大人の男が仕組んだ、 最愛で最悪な、ふたりきりのアンコールが始まる。