あらすじ
宮廷料理番のロルフ・グラナートは、王太子の食中毒騒ぎの責任を押しつけられ、大陸最果ての国境砦に左遷された。
着任したグレンツェ砦はひどい有様だった。三年前の停戦以来、補給は後回し。倉庫には霜まみれの干し肉と芽の出た玉ねぎ。兵たちは冷めた煮こごりを啜り、脱走者は月に十人を超える。
――食える飯さえあれば、兵は逃げない。
ロルフは倉庫の「捨てられる寸前」を磨き上げ、砦の隅に小さな食堂を開く。堅パンは蒸し直せば甘くなる。干し肉は薄く削れば出汁になる。うまい匂いは兵を引き留め、やがて川向こうの「敵」まで引き寄せた。
「停戦協定第十二条に基づく視察だ。……おかわりを要求する」
通ってくるのは帝国国境警備隊長、氷の女将校カーヤ・ヴォルフ。敵軍の精鋭が常連になり、両軍の兵が同じ長机で匙を並べる頃、王都では左遷の黒幕が動き出す――。
飯がうまい国境は、戦争ができない。左遷料理番の兵站飯が、剣より先に前線を落とす異世界グルメ戦記。