あらすじ
夫の田辺亮介が末期腎不全と診断された日、私たちの生活は崖っぷちに突き落とされたようだった。
医師によると、亮介の腎機能はかなり低下していて、尿毒症の症状がいつ悪化してもおかしくないという。亮介は私の手を握りしめ、目を赤くしていた。
「美夏、俺、死にたくない」
透析には健康保険や高額療養費制度があるから負担はある程度抑えられる。けれど、入院中の差額ベッド代、通院の交通費、生活費、それに亮介がどこかで聞いてきた自由診療の検査や治療には、どうしてもまとまったお金が必要だった。
そのお金を作るため、私は昼間は渋谷の高級食品スーパーでレジに入り、夜は港区白金台の近くにある宿泊型産後ケア施設で夜勤の補助スタッフとして働いた。
そこは高所得層向けの産後ケア施設だった。出産して間もない女性が短期間滞在し、助産師や看護師、保育スタッフのサポートを受けながら、身体を休めたり、新生児の世話を手伝ってもらったりする場所だ。私の仕事は医療行為ではなく、タオルの洗濯、備品の補充、ベビーベッドの整え、部屋へのお茶出しだけだった。