あらすじ
恋人役を演じる。
ただ、それだけのはずだった。
白凪学園には、事情を抱えた生徒のために用意された特殊制度がある。
それが、一定期間だけ“交際相手”を演じることで、周囲の視線や外部からの圧力、厄介な人間関係から依頼人を守る交際補助制度。
その制度の担い手である桐生蓮は、誰よりも優秀な補助士だった。
必要な時だけ近づき、相手を楽にし、救い、そして終わる時にはきちんと引く。
優しく、誠実で、決して一線を越えない。
それが桐生蓮の正しさだった。
けれど、その“ちょうどいい優しさ”に触れた少女たちは、やがてみな、ただの役として彼を見られなくなっていく。
明るく人に愛される配信者、星坂めぐる。
選ぶことを許されずに育った名家の少女、九条翠。
全部分かっていたのに、心が追いつかなかった静かな書き手、篠宮紬。
彼女たちの想いは、それぞれ違う形で蓮の中へ残っていく。
だが蓮は、誰かを救うことはできても、自分だけは感情の当事者にならないよう、ずっと一線を引き続けていた。
そんな彼の前に立ちはだかるのが、制度の監査を担う少女、皇莉子。
彼女だけは、蓮の優しさではなく、その優しさの歪みを見抜いていた。
「あなたの仕事は正しい。でも、その正しさだけでは足りない」
これは、誰かの恋人を演じ続けてきた少年が、誰かの隣に立てるのかを問う物語。
優しさは、ときに人を救う。
そして同じくらい、傷つけもする。
その痛みの先で、少年はようやく自分自身の恋と向き合う。
これは恋人役から始まる、痛くて優しい青春ラブストーリーである。