あらすじ

神楽坂の路地裏にある小さな結婚相談所、春灯結婚相談所。 社員は社長兼仲人の御厨御幸と、二人の女性アシスタントだけ。 規模は小さいが、紹介でのみ依頼を受けるその相談所には、「どんな条件の依頼人でも必ず成婚させる」という噂がある。 ある日、春灯を訪れたのは、三十五歳の会社員・朝倉絵美。 仕事は順調、生活も堅実、容姿も条件も悪くない。 婚活市場では決して不利ではないはずなのに、なぜか誰とも関係が続かない。 お見合いは成立する。 だが仮交際に進むたび、「緊張する」「隙がない」「何を考えているか分からない」と言われて終わってしまう。 初回面談で御厨は見抜く。 絵美は結婚に向いている。 だがその誠実さも、すべて“正しく見られるため”に働いてしまっているのだと。 彼女が本当に求めているのは、条件のいい相手ではない。 安心して帰れる家。 疲れた日に黙っていても壊れない時間。 頑張り続けなくていい関係。 けれどその願いは、婚活の場に立つと「年収」「学歴」「安定」といった条件の言葉にすり替わってしまう。 御厨の右腕である篠原唯花は、絵美の過去の活動履歴を分析し、彼女の失敗が“相性”ではなく“自己防衛の癖”にあると整理していく。 一方、感情の機微に敏い雨宮柚葉は、絵美がふと漏らした本音を拾う。 「私、結婚したいというより、ちゃんと選ばれたかっただけかもしれません」 その一言で、絵美の婚活は大きく組み直される。 条件の優先順位ではなく、選び方そのものを見直す段階へ。 やがて春灯が紹介したのは、離婚歴のある三十八歳の男性、藤崎航太。 条件だけ見れば、絵美がこれまで求めてきた“理想”から少し外れている。 だが彼の前では、不思議と会話が疲れない。 沈黙が失敗にならない。 ちゃんとしていなくても、関係が壊れない気がする。 それでも絵美は迷う。 もっと条件のいい相手がいるのではないか。 ここで決めるのは妥協ではないか。 ちゃんとしてきた自分が、もっと“分かりやすく報われる”道があるのではないか。 その迷いに対して御厨は言う。 「あなたは条件を下げるんじゃありません。勝ち負けの基準で選んできた人生から、生活の基準で選び直すだけです」 これは、恋愛の高揚ではなく、結婚の現実に向き合う物語。

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小説を読もう2026/07/01
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