あらすじ
※婚約破棄宣言する側のおはなし※ラブコメ
「婚約を、破棄させていただきます」
ディーアルトは、自分でも驚くほど落ち着いた声でそう言った。人生でもっとも勇気を振り絞った言葉を告げるにしては、及第点と言えるのではないだろうか。
「……はい?」
向かいに座るユーライザは、スコーンを口に運ぼうとしていた手を止め、きょとんとした顔でディーアルトを見た。
窓の外では春の陽光が邸宅の庭を白く照らしており、遠くで鳥がのんきに鳴いている。こんな穏やかな午後に告げる言葉ではないかもしれないが、ディーアルトには今しかなかった。昨夜、前世の夢を見たのだ。
「婚約を、破棄したいと言いました」
「えっと、……もう一度お願いします」
「婚約破棄で——」
「お砂糖、もう一つおつけしましょうか」
「話を聞いてください」
ユーライザはティーポットを持ち上げながら胡乱に見つめ返している。
これは、完全に聞いていない顔だ。
「俺は本気ですよ」
「ええ」
「昨晩、夢を見たのです。前世の記憶の」
「はあ」
「前世で、あなたに酷似した人物に大変苦しめられました」
「それは、大変お気の毒ですが」
「なのでこの婚約は——」
「スコーン、お一つどうぞ」
「食べません」