あらすじ
「貴様のパンは、もう要らぬ」――王宮の食堂で、王太子レオハルトから突きつけられた婚約破棄と解任。地味で茶色いライ麦パンを「平民の食べ物」と嘲笑され、宮廷主席パン職人ユイ=シュトレーゼは、静かに竈を返して王宮を去ります。
でも、彼女は喚きません。だって彼女には分かっていたのですから――あの竈に宿る『古き竈神』の存在も、王宮が手放した本当の価値も。
前世は現代日本の町のパン職人。誰にも看取られず竈の前で倒れ、最後に願ったのは『もう一度、誰かの「おいしい」が聞きたい』ということ。その想いだけを胸に、ユイは辿り着いた辺境の寂れた宿場町で、廃れた竈を自らの手で蘇らせます。
焼きたてのパンの香りが、寂れた町にふわりと流れ出したとき――物語は静かに動き始める。
聖女から授かった「竈の祝福」、お忍びで現れた覚悟を秘めた少女、「あなたのパンでなければならない」という切実な願い。そして、ユイを追放したあの王宮では、もう二度とパンが焼けなくなっていた……?
ざまぁ要素も、じんわり染みる「おいしい」も。焼きたてパンの香り漂う、心温まる追放スローライフ・ファンタジー、開幕です。