あらすじ
証券会社の営業、田中誠、二十五歳。花形企業はすべて落ち、ようやく拾われたのがノルマ地獄の証券会社だった。実家が太くないから、留学もリーダー経験もない。ガクチカが書けないというだけで、まともな評価すら貰えなかった人生。もう限界だ——そう思った夜、目が覚めると十九世紀の中国、広東の農村にいた。
しかも憑依した体は、あの太平天国の乱を起こす男・洪秀全の族弟、洪仁玕。このままいけば兄は清朝相手に大反乱を起こし、三千万人を巻き込んだ末に自滅する。自分もいずれ、生きたまま切り刻まれて処刑される——そんな未来を、なんJまとめサイトの雑学で知っていた。
一瞬だけ竦んだが、すぐに気づく。日本にいた頃だって、この生活と大差ない地獄だった。コネがないから報われなかった人生の果てに、今度は数千万人を動かせる「コネ」が転がり込んできたのだ。
ならば利用してやる。
兄の曖昧な”お告げ”を、都合よく編集し、教義を書き換え、清を打倒する。李秀成のような貧しい実力者には公正な出世の道を与えてやりながら、自分自身は血縁というコネを恥じることなく使い倒す。廃仏毀釈で儒教も仏教も、まっさらにしてやる。上帝は「神聖にして侵すべからず」という空白の記号に祭り上げ、実権は自分が握る。
目指すは、日本より先に成し遂げる近代化。
これは、コネなしで詰んだ男が、コネの怖さを知り尽くした末に、皇帝の座まで駆け上がる物語。