あらすじ
身分が違うってこたぁ、わかってる。それでも、惚れちまったんだ。
江戸の片隅で繕いものを生業とする椿は、割れた器を金で継ぐ、金継ぎ職人の娘。
「継ぎは傷じゃねえ」——亡き父の遺した言葉を胸に、今日も壊れた器と向き合っている。
そんな椿には、ひとつ秘密があった。
物に宿った想いの声が、聴こえてしまうのだ。
ある日、椿は怪異を秘かに扱う旗本の若様・慧之進と出会う。
物に残された未練を解き明かしたい慧之進と、その声を聴ける椿。
二人は、江戸の町で起こる不可思議な事件を、ともに解いていくことになる。
ただ一度、名を呼ばれたかった乳母。報われぬ恋を抱えて散った、三味線の弟子。役割を失い、闇に堕ちた刀匠——。
割れた器に、撥に、刀に残された人々の想いを、椿はその手で継いでいく。
傷を隠さず、金の線で前より美しく。
継がれた想いが、未練を抱えた魂を、そっと救っていく。
人の想いを継ぐうち、椿はいつしか、慧之進に惹かれている自分に気づいてしまう。
生真面目で、不器用で、けれど誰よりも優しいあの若様に。
けれど、職人の娘と、旗本の若様。
身分が違えば、この恋が叶うはずもない。
好いていると、言えやしない。
そして、想われているのは、椿だけではなかった。
慧之進もまた、口にできぬ想いを、静かに胸に秘めていて——。
すれ違いながら、想い合う。
伝えられぬまま、近づいていく。
不器用なふたりの両片想いは、江戸の四季を巡り、どこへ辿り着くのか。
割れたものを、継いで、前より美しく。
これは、世から見過ごされた者たちが、本当の自分を見てくれる人に出会う物語。
物の声を聴く小町娘と、怪異係の生真面目若様が織りなす、じれったくて、あたたかい、あやかし事件帖。
※本作は「カクヨムときめく小説大賞【ナツガタリ'26】」応募作です。