あらすじ
『Virtual - Key of Identity Tool』――略して『Vキット』。
初音○クの爆発的なヒットを参考に作られたそれは、購入者全員に素体――「同じ2Dキャラクター」を配布し、配信活動に使用することを許可するものだった。
もともとはVtuberに憧れる子どもや若者が配信を始めるための入門編として発売されたものであり、謳い文句は、『買ったその日からキミもVtuber!』。
その言葉に嘘偽りはなく、パッケージ版を購入すればパラメータ設定の済んだ2Dデータはもちろんのこと、配信に必要なカメラやマイク、そのキャラクターの声に変換するボイスチェンジャーまで同封されている親切使用。
あと足りないものと言ったらパソコンぐらいだが、最近は配信に適したパソコンとセットで購入できるものも用意されており、セットアップも懇切丁寧にサポートしてくれる。文字通り購入したその日からVtuberとしての活動が可能になるわけだ。
さらに、初心者向けのテンプレートが充実した編集ソフト、豊富なBGMやサムネイル素材も付属している。しばらくの間はそれだけで配信活動は可能だが、公式サイトへ行けば、今なお増え続けている素材を無料で追加ダウンロードできる。
初音○クを参考にして作られただけあって二次創作は全面的に許可されており、キャラクターの肌の色や顔、髪型といった根本的な部分は変更できないものの、服装に関していえば『センシティブでなければ』という一文が入るが、衣装の改変はわりかし購入者の自由にできる。
最初はみな同じであっても、パッケージに付属している帽子や眼鏡をかけるだけでもだいぶ印象は変わり、柄や色などで特徴をつければそれだけでオリジナリティは出る。衣装自体も公式から提供されている無料アプリで作成可能なこともあり、視聴者からオリジナルの衣装をプレゼントされることも珍しくない。日本人の凝り性の気質も相まって、配信者ごとの個性を出すには十分だった。
販売当初こそ「みんな同じ顔で配信する意味があるの?」や「配信者としての個性がないよね」といった批判もあった。しかし、元ネタである初音○クはもちろん、ネットで今なお人気を博している「ゆ○くり実況」や「ずんだ○ん」のように、外見や声が同じでも中の人――配信者、投稿者が違う文化は、すでに広く受け入れられている。
『Vキット』も同様で、むしろ「見た目が同じだから抵抗なく見ることができる」「初心者でもとっつきやすい」という理由からファンが定着しやすく、初配信でも一定の視聴者を得られる。その利便性から、今や大人も愛用する大ヒット商品となっていた。
すでにシリーズは『Ver.5』まで発売されており、その中でも俺――『ニレ』はVer.2、少年の姿をしたVtuberの素体。
バグかなにかわからないが意思を持ってうまれた俺は、人間のパソコンを渡り歩きながら仕えるべき主人、マスターと呼べる存在を探している。
さて、今日はどんな人に出会えるのだろうか。
*************************
4編からなる短編連作
完結保証済です。
読み専、コメント歓迎。