あらすじ
「ご紹介いただいたのはこちらになりますね」
「まあ、これなのね……。デザインもいいじゃない。しかも最新型ですって。よかったわね、本当に……」
とある補聴器専門店。少年は背中を丸め、縮こまるようにして椅子に座っていた。膝の上で両手を固く握りしめ、時おり視線だけを左右に走らせては、すぐに床へ落とす。
隣に立つ母親が、その背中を軽くぽんと叩いた。少年は顔を上げて小さく頷いた。
親子は医師の紹介を受け、この日初めて補聴器を買いに来たのだった。
店員が差し出した補聴器は小型で肌の色に自然に馴染むデザインだった。耳に収めれば外からはほとんど目立たない。これなら人目を引くこともなく、学校でちょっかいをかけられる心配も少ないだろう。
もっとも今、少年自身はそんなことを気にしておらず、ただ緊張で体を固くしていた。
無理もない。彼は幼い頃に両耳の聴力を失い、それ以来ずっと音のない世界で生きてきた。人の声や音楽はもちろん、風の音も雨音も知らない。ただただ突然肌を撫でつけてくる無遠慮で不気味な現象にすぎなかった。