あらすじ
大学二年の美咲は、背中まで伸びた黒髪を当たり前のように受け入れながら生きていた。
それは特別な誇りでもなければ、強い意思で選び取ったものでもなく、ただ「そうであることが自然」と信じて疑わなかった、自分そのものの一部だった。
しかし、ひとりの男――悠斗との出会いが、その前提を静かに揺らし始める。
「それ、本当に自分で決めてるの?」
否定ではなく問いかけ。
命令ではなく、思考の誘導。
優しさの形をした言葉が、少しずつ彼女の内面に入り込み、やがて“当たり前”だったはずの価値観を崩していく。
自分で考えているつもりのまま、変わっていく認識。
自分で選んだと思い込みながら、導かれていく決断。
やがて美咲は、自らの意思で長い髪を捨てる選択をする。
床屋の椅子に座り、バリカンの振動とともに削り落とされていく黒髪。
足元に積もる過去。
変わっていくシルエットと、露わになっていく輪郭。
そして最後に、剃刀によって完全に“ゼロ”へと整えられる頭。
それは解放なのか、それとも支配なのか。
髪を失うことで軽くなる身体と、同時に削ぎ落とされていく思考。
「自分で決める」という感覚の消失と、その代わりに生まれる絶対的な安心。
これは、強制ではない。
これは、暴力でもない。
だからこそ抗えない――
静かに侵食されていく心理の物語。
“自由に選んだはずの選択”の、その正体を問う心理サスペンス。