あらすじ
夏の野球場で、ビール売り子「朝霧澪」として働く夜凪怜司、二十六歳。
清楚な女性の姿とやわらかな声を作り上げ、人気売り子として売上を伸ばす怜司には、もう一つの目的があった。特別報奨を得るため、販売記録に不正な操作を加えようとしていたのだ。
しかし、同じ球場で働く売り子・桐谷渚は、怜司の嘘と計画に気づいていた。渚もまた、仕事のために女性の姿を演じる男であり、怜司と同じく「作られた姿」をまとっている。だが、渚はその姿を誰かを欺くためではなく、現場で働く人を支えるために使っていた。
売上、正体、そして自分の価値をめぐり、二人の対立は次第に激しくなる。七回裏のバックヤードでは、乱れたウィッグ、汗で崩れるメイク、制服の下で形を整えていたタオルや補正具までが露わになり、怜司は自分が守ろうとしてきた「朝霧澪」という仮面と向き合うことになる。