あらすじ
飲酒運転の車から新聞配達の少年を救い、命を落とした交通誘導員・坂上仁。
次に目を覚ますと――異世界の道具屋で売れ残った、毛先の割れたボロホウキになっていた。
理由は少し情けない。
人を守って死んだ善行の一方で、現世の仁はゴミ屋敷寸前の部屋を放置し続けていた。その業を背負わされ、彼は「道を空け、汚れを掃くもの」として、ホウキに転生したのだ。
人間へ戻る条件は、謎のポイントを999まで積み上げること。
頼りになるのは、前世仕込みの奇妙な力――進路も攻撃も魔力も、ほんの少しだけ「道から外す」交通誘導スキルだけだった。
そんな仁を、なけなしの硬貨で買ったのは、極貧の魔女リゼ・フォレスタ。
膨大な魔力を持ちながら、攻撃も防御もできない。使えるのは、相手を眠らせる魔法ひとつだけ。しかも制御はめちゃくちゃで、敵どころか自分や味方まで眠らせかける、筋金入りのポンコツだった。
それでもリゼは、空の大競技「七宝玉杯(ななほうぎょくはい)」に出なければならない。
木に変えられた父を救う方法は、その頂にしか残されていないから。
出場者、八百四十六人。
渓谷、森、地下火山、氷雪山岳、海、洞窟迷宮、悪魔の城。
七つの魔境コースには、それぞれ宝玉が眠り、化け物や魔物、古き守護者たちが待ち受けている。
しかもレース中の妨害魔法は、ほとんど合法だった。
火球で進路を塞ぎ、風刃でホウキを裂き、泥で視界を潰し、魔力の鎖で足を止める。落とされた相手の悲鳴さえ、歓声にまぎれて消えていく。
攻撃も防御もできない少女と、道を外すことしかできないホウキ。
誰がどう見ても、最弱のコンビ。
それでも二人は、降りない。
火球は横へ流す。鎖は逸らす。撃ち返せないなら、外せばいい。止められないなら、道を変えればいい。
底辺だと笑われた交通誘導の技術が、異世界の空で、少しずつリゼの命をつないでいく。
負けて、泣いて、それでも立ち上がるたび。
一人だった少女のまわりに、少しずつ、おかしな仲間が増えていく。
ただ、リゼはまだ知らない。
毎日またがっているこのボロホウキが、ただのホウキではないことを。
そして、勝てば勝つほど、仁がもう自分のホウキではなくなる日が近づいていることを。
宝玉を狙う王の側近。
感情を奪われた白銀の令嬢。
仁の正体に気づき始める美少女たち。
そして、最後のレース「魔王杯」。
リゼが追いかけている宝玉には、まだ誰も知らない秘密が隠されていた。
これは、空を飛ぶ泣き虫な少女と、道を外すことしかできなかった“相棒”が、誰も壊さない勝ち方を探す物語。
泣き虫な君の命を、俺が最速のゴールへ誘導する。