あらすじ
近未来の日本。
富士山が、また噴こうとしている。
それは科学的には純粋な地質現象だ。
だが同時に——かぐや姫が去ったあと、帝が不死の薬を焼いた山でもある。
千年読まれ続けたその煙が、いま災害として目を覚まそうとしていた。
地震や火山に「古典文学のせいですね」と真顔で言う役所、災害叙述管理局。通称『ナラ局』
そこに勤めるしがない公務員・少弐綴に下った任務(業務)は、噴火を止めることでも、物語を書き換えることでもなかった。
日本最古の物語の終わりに、たった一行の「異聞」を差し込むこと。
ただ、それだけ。
南極の氷から打った刀を腰に、綴は『竹取物語』最後の夜へ跳ぶ。
月の迎えが地上のすべてを無力化する、その只中へ。
そこで彼が見たのは、教科書のどこにも書かれていない、かぐや姫だった。
金の髪。青い眼。そして、あらゆる嘘を見抜く瞳。
「私はいらない。私が残す永遠だけが欲しいのですね」
最初の言葉で見透かされ、拒絶された綴に、姫は五つの難題を課す。
それは、いくつもの物語と、いくつもの時代へ続く扉だった。
泣き濡れた異国の少女のもとへ。
三度焼ける城へ。
海の底へ沈む幼い帝のもとへ。
奪わず、欺かず、人の心を書き換えず。
それでも手ぶらでは帰れない道を、彼は読み解いていく。
宮仕えは、いつの世も辛い。
古典は、分かるほど逃げ場がない。
そして恋は——分かったあとから、逃げ場を消していく。
物語を守る男と、物語に閉じ込められた姫。
原典を一字も汚さずに、二人は「その先」へ行けるのか。
竹は包む。
松は待つ。
梅は、まだ来ない。
竹取物語異聞