あらすじ
佐藤健一、三十歳。会社員。一人暮らし歴八年。趣味は深夜アニメ鑑賞と料理系動画の視聴。そして、人生で彼女ができたことは一度もない。正確には「いたような気がした時期はある」が、いたとは言っていない。バレンタインデーに毎年、母親からのチョコを「家族愛だからノーカウント」と言い聞かせてきた、そんな男の話だ。
そんな彼の平凡な人生は、ある日突然トラックによって幕を閉じた。会社帰りの横断歩道で、スマホを見ながら歩く小学生を助けようとしたのだ。行動の判断は正しかった。ただ一点を除いて――佐藤が運動不足すぎて、助けに向かう速度が絶望的に遅かった。小学生は難なく自力で渡り切り、佐藤だけが見事にトラックの前へ取り残された。運転手と佐藤が同時に「えっ」と言い、次の瞬間、佐藤の人生は異世界転生テンプレート通りに盛大にフェードアウトした。
気がつくと、どこまでも真っ白な空間。そこに現れたのは、紫の魔女帽に紫のローブ、しわがれた長い鼻の、どこからどう見ても魔女な老人だった。しかも手にはタブレット端末。「佐藤健一さん。享年三十歳。死因、トラックとの接触事故。備考、童――」と読み上げようとする老人を、佐藤は全力で阻止した。
この「自称・美少女女神」によると、佐藤の死はシステム上の「手違い」。本来まだ生きているはずが、ミスで死亡してしまったという。お詫びとして、剣と魔法の異世界転生パッケージに加え、特別スキルを一つ授けてくれることになった。
これだ、と佐藤は確信した。異世界。チート能力。美少女ハーレム。モテ期大爆発。意を決してリクエストしたのは「魅了」スキル。「カリスマ的人望のため」と本人は力説するが、女神には完全にお見通しだ。「モテたいのじゃな」。
しかし魅了スキルは危険物扱い。発覚すれば即お縄だという。頭を抱える佐藤に女神が提示したのは、六割の確率で魅了が当たる「ルーレット」スキルだった。それ以外の目が何であるかは、誰も教えてくれない。
「誓ってそんなことはせん!はよひけ!!」
怒声に急かされ、佐藤はルーレットを回す。非モテ三十年の運命が、今、一回転に委ねられた。