あらすじ
婚約披露会の前夜、航平の友人たちは六本木にある個室を予約していた。結婚前に、最後にみんなで集まろうという名目だった。
私は彼の隣に座り、グラスの中で揺れる光を見つめていた。胸の奥は、ずっと重かった。航平は仲間たちに囲まれ、シャツの袖を肘までまくり、資金調達が順調に進んでいる起業家らしい高揚を顔に浮かべていた。
みんなが言った。大学時代から彼を支えてきた私が、ようやくいちばんいい形にたどり着いたのだと。
空気が変わったのは、三枝梨奈がゲームに負けたときだった。
誰かが、梨奈に自分へ三杯の酒を捧げろと囃し立てた。彼女はすぐには断らず、意味ありげに私を一瞥し、うつむいて小さく笑った。
「一杯目は、私の青春に。二十歳の成人式の年、私はいちばん肌に近いものを、航平への成人祝いとして贈りました」
個室が一瞬静まり、すぐに妙な歓声が上がった。
梨奈はグラスを揺らしながら、無邪気で、それでいて勝ち誇ったように笑っていた。
「二杯目は、私の勇気に。人生で初めて撮ったヌードのプライベート写真は、航平に撮ってもらいました」
私はグラスを握る手に力を込めた。指の関節が白くなる。隣の航平は眉をひそめたが、ただ低い声で「もうやめろ」と言っただけだった。
梨奈は聞こえなかったふりをして、三杯目のグラスを掲げた。
「三杯目は、私たちの友情に。航平と一生切れない関係でいる記念に、私は彼のいちばん人に見せない場所へ、自分の名前の頭文字を彫りました」