あらすじ

「──毒が盛られたのは、あの茶碗じゃない。お前の手だ、と証拠を突きつけられた気分はどうだ?」 彼女はそう言って、指先で一枚の紙を机に滑らせた。後宮で最も人気のない記録庫。そこに棲む写書吏は、誰も顧みない調合録と食事日誌とを、ただ黙って突き合わせる。 「動機など後付けだ。薬は、効く前に気配を消す。だから私は記録を残す。嘘は必ず、紙の上で綻ぶからな。」 彼女が追うのは犯人ではない。毒の履歴だ。誰が、何のために、どこから持ち込んだのか。華やかな夜会の裏で、沈黙する本草学が、今日もまた新たな死因を“記録”する。 「さあ、教えてくれ。この三日前の煎じ薬の順番は、なぜ誰も確認しなかった?」 問いかけに答えられる者は、宮中に一人もいない。彼女の手元には、ただ分厚い台帳と、一本の羽根ペンだけがある。

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小説を読もう2026/06/29
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