あらすじ
仕立ての町・霧沼に越してきて七か月。見習い職人の空は、市場の賑わいの中にいながら、ずっと薄い膜の向こう側にいる気がしていた。
ある雨の日、石壁の上に一匹の猫が座っていた。銀灰色の毛並みに、琥珀色の目。猫は話す。口が悪い。でも、縫い目の歪みを一ミリ単位で指摘してくる、妙に目が鋭い猫だった。
「知らない」と言いながら小石や花びらを台の端に置いていく。その猫と暮らすうちに、気づくと窓を開けたままにするようになっていた。ギンが外から帰ってこられるように。
霧沼の秋送り祭に向けて飾り布を縫う、静かな日々の物語。一話完結・約1.5万字。