あらすじ
かつて小さな文芸サイトで“作家”と呼ばれていた堀江は、今は深夜のプリントショップで働いている。
ある夜、彼は二年間止まっていたアカウントに、七分間の録音を投稿した。そこに残されていたのは、学校の裏の坂道、切られた桜、青いボールペン、そして高校時代の友人・伊吹の名前だった。
三年前の雪の夜、伊吹は旅館の部屋を出たまま戻らなかった。
そのとき、堀江は起きていた。
彼女と目が合っていた。
けれど、何も言わなかった。
ただ普通に聴いてほしかっただけの録音は、やがて“作品”として解釈され、考察され、拡散されていく。誰もが彼の沈黙に意味を見つけようとし、死んだはずの伊吹は、ネットの中でもう一度消費されていく。
これは、聞かれなかった声についての物語。