あらすじ
中堂物産総務部で働く入社六年目の赤根澤茜は、真面目で物静かな会社員。
だが、彼女は誰にも語らない豊かな内なる世界を持っていた。
「知っていることと、それを語ることは別だ」という処世術を胸に、日常のあらゆるミクロな瞬間に五感を研ぎ澄ます茜。
アパートの隙間に咲く名もない紫の花、満員電車の奇妙な連帯感、ウィンドウに飾られたミントグリーンのブラウスのフリル。そして週に二度、ヨガで地面を踏みしめる足の裏のアーチ全体を感じ、サウナと水風呂の往復で内と外の温度を均していく。
それは、社会が後から貼り付ける名前やジェンダーといった「ラベル」から脱出し、自分の心と身体を調和させていく神聖なセルフケアのプロセスだった。
言葉に頼らず、世界の片隅でただ誠実に生きる美しさをすくい上げる、静謐なリアリティに満ちた自己治癒の文学。彼女の歩む一年のグラデーションが、今、静かに幕を開ける。