あらすじ
リディアは、ずっと自分を後回しにしてきた。
王太子の婚約者として。
王宮魔導具局の付与師として。
誰かの面目を守るために働いてきた。
けれど舞踏会の夜。
彼女は無能と罵られ、婚約を破棄される。
その場で、リディアは退職届を差し出した。
王宮の灯りは、なぜか静かに止まる。
厨房の湯は、ぬるま湯になる。
彼女の仕事だけが、消えずに残っていた。
辺境公爵セドリックは、彼女に契約書を差し出す。
そこには、休む時間まで書かれていた。
リディアは初めて、自分の手を守られる。
だが、王宮は彼女を手放さない。
使った覚えのない魔力印が現れる。
善意の名で、危うい魔導具が配られようとする。
リディアは怒鳴らない。
泣き寝入りもしない。
紙と印と記録で、自分の名前を取り戻していく。
彼女の付与は、誰のものなのか。
彼女の時間は、誰のためにあるのか。
その問いが、止まった王宮の灯りを揺らす。
そして、定時の鐘が鳴る場所で。
リディアはもう一度、自分の仕事を選び始める。
彼女の印が照らす本当の居場所は、どこにあるのだろう。