あらすじ
雨上がりの空の下に、その子は立っていた。
かわいらしい格好で、大きなギターを弾くその姿は、すごく綺麗だった。
人に気を遣い、ネガティブな気持ちに飲まれる私の視界は、灰色のフィルターに覆われている。
だけどその子は私に顔を近づけ、顎に手を添えて言ったのだ。
「綺麗な顔」
と――
甘い吐息が口元に掛かり、心臓が跳ねる。
だけど、同時に違和感を覚えた。
「え?」
彼女の口から出た声、それは女性とは思えないくらいに低い。
声変わりを果たした、低音の重厚感が極まったイケボ。
それが、目の前の美少女の喉から奏でられている。
「残念、男の子でした。がっかりした?」
悪戯っぽく笑い、小首を傾げる。
「ひゃ、ひゃぁあああああ!!」
情けない叫び声をあげ、そこから逃げ出す。
巧みにギターを操り、配信でも人気を得ているその子の名は……
空音結弦(そらおとゆづる)
そう、最強の『女装男子』だった。
私と違ってきらきらに輝いている彼は、なぜか私を褒めてくる。
同級生の朱里さんの影に隠れた私なんて、何も良い所はないのに。
更には歌っている所を聞かれ
「ぼくは優子ちゃんとライブしてみたいんだ」
と文化祭のステージに誘われてしまう。
陰キャな私が、そんな舞台に立てるわけがない。
だけど
「ぼく、優子ちゃんのいいところ百個以上言えるよ」
と力強く抱きしめてくる彼の男気に、私の心は少しずつ揺れ動いて――
好きなことに一生懸命な彼によって、私の灰色の世界は徐々に彩られていく。
雲間から覗く虹色。
結弦くんの笑顔は今日も明るく、私には眩しかった。