あらすじ
宿場町ベルナの若き《均衡師》カイ・オルデンは、戦闘評価では落第扱いだった。
剣で魔獣を倒せるわけではない。
魔法で傷を癒やせるわけでもない。
彼にできるのは、積み荷や橋や足場の「釣り合い」を見て、崩れない一点へ整えることだけだった。
けれど、その力は確かに人を救う。
春祭りの日、カイは封鎖線へ向かう荷車の中に隠れていた少女を見つける。
名はリネア・ヴァロ。
十年前に消滅したはずの封鎖都市ヴァロスの公女だった。
彼女を引き渡せば、カイは無事でいられた。
けれど、検問所の巨大な門は、閉じるためではなく、誰かを通すために作られていた。
カイは線を引く。
外へ追い出す線ではなく、通すための線を。
その選択をきっかけに、彼は統衡府から追われる身となる。
橋を守るために自分を支柱だと思い込んだ巨人。
損得で逃げ道を読む獣人商人。
効きすぎる薬の危うさを知る旅薬師。
旧文明の基準で世界を測る人形。
命令と罪悪感の間で揺れる封鎖隊長。
カイは彼らを従えるわけではない。
ただ、強すぎる力がどこへ傾き、どこで崩れかけているのかを見つける。
そして、その力がもう一度まっすぐ立てる場所を示していく。
荷台、門、橋、薬、食卓、封鎖線。
小さな釣り合いを整えるだけだった職人技は、やがて封鎖都市と古代交通網《衡路》、そして大陸を支える制度の歪みへ届いていく。
均衡とは、世界を安定させることか。
それとも、誰かが傾いたときに、立ち直る場所を示すことか。
戦えない《均衡師》の少年が、傾いた世界に線を引く。