あらすじ
灰見朔太郎は、ゲームに詳しくない。
背が高く、目元は眠そうで、何を考えているのか分かりにくい。
ただし、刃物の扱いと生き物の身体を見る目だけは異様に確かだった。
ある日、朔太郎はゲームに今でもハマっている友人・鳴瀬迅に誘われ、オンライン対応アクションRPG《神域獣譚》を始めることになる。
戦闘好きの迅は、神獣種ボスや素材集め、攻略情報に詳しい現役のやり込み勢。
一方の朔太郎は、ほとんど何も知らない初心者だった。
しかし、ゲーム開始直後、2人はキャラクター作成もチュートリアルも飛ばして、見知らぬ森へ転移してしまう。
そこは《神域獣譚》によく似た世界。
だが、画面もUIもコントローラーもない。
痛みがあり、匂いがあり、倒した魔物の死体は消えない。
そして2人は、森の奥で死にかけた白い巨獣と出会う。
人々はそれを、森の神として祈っていた。
迅はそれを、ゲーム知識から神格存在ではなく「神獣種」だと知っていた。
朔太郎はその身体を見て、静かに言う。
「これは、神じゃないと思う。」
胃がある。
歯が減っている。
古傷がある。
血が流れ、肉が傷み、死ねば腐る。
ゲームでは、神獣は倒せば素材を落とした。
だが、この世界では違う。
素材は光になって落ちない。
すべて、死体についている。
戦うのは迅。
捌くのは朔太郎。
神として祈られた獣を、神ではない生き物として見つめる眠そうな解体師は、今日も静かに刃を入れる。