あらすじ
四十歳、独身、歯科医。みゆきは週に丸一日を、電車の中で生きている。
千葉の実家、練馬の勤務先、川越の訪問診療——三つの海を回遊するせいで、彼女は人より圧倒的に高い確率で、終電前の車両に巣くう"変なもの"と交差してしまう。乗った瞬間に吐く男。鳥かごにきゅうりを入れて運ぶ老人。レースに鞄のチャックを噛ませて立ち尽くすエルメスの貴婦人。
みゆきはそれを「上演」と呼び、★をつけて記録する——のだが、気づけばいつも、舞台のいちばん真ん中で、自分が最大の変人になっている。
唯一の癒やしは、真っ白なのに「おはぎ」という名の犬(※どう見ても大福)と、別れたのか別れてないのかよくわからない、たまにエセ関西弁が漏れる元彼だけ。休みは月に二回。家には五年分の段ボールタワー。冷蔵庫には、絶対に減らない期限切れの調味料。そして彼女は、「眠るモノは救われる」を唯一の教義に、たった一人で睡眠教を立ち上げている。いつか睡眠党を結成し、六月に祝日を作るのが夢である。
これは、ある独身女が、毎晩ちょっとずつ世界の異常と交差しながら、それでも明日も泳ぎ続ける、笑えて、少しだけ沁みる、終電前の物語。
一話完結。どの駅から乗っても、笑えます。
※日暮里の攻略法は、たぶん最終話まで見つかりません。