あらすじ
水曜日3限、民俗学概論。
白石未緒はいつも、石井玲奈の斜め後ろの席に座っていた。
薄いブラウンの髪。
揺れる声。
隣にいる親友。
少し目立つけれど、どこにでもいる大学生の身体。
けれどある日、玲奈と双子の兄・玲央の身体が入れ替わる。
きっかけは、髪。
互いの髪を、互いのつむじへ重ねること。
それだけで、身体の境界はほどけてしまった。
玲奈の身体に入った玲央は知る。
女の子の声なら届く場所。
髪が揺れれば動く視線。
困った顔をすれば返ってくる心配。
男の身体では入れない距離。
玲央の身体に入った玲奈も知る。
低い声なら止められる空気。
肩幅だけで空く道。
夜道で減る怖さ。
女の身体では持てなかった強さ。
戻ったあとも、その記憶は消えない。
「使わない」
そう言いながら、2人はもう知っている。
どの身体なら届くのか。
どの声なら止められるのか。
どの髪なら、人が振り向くのか。
そして、未緒は気づく。
見ているだけの後ろの席にも、確かにおいしさがあることに。
これは、身体を奪う話ではない。
本人より先に、本人を知ってしまう話。
髪とつむじから始まる、静かな入れ替わり日常ミステリー。