あらすじ
「この心臓は、必ず悠斗の身体に入れて。角膜も無駄にしないで、売れるなら売って。腸なんて使い道ないでしょ、悠斗の好きなあの犬にでも食べさせればいい。遺体は細かく処理して、誰にも分からないようにして」
婚約披露の日、梨奈は俺に「サプライズがある」と言った。彼女から渡された酒を飲んだあと、俺の意識はすぐに途切れた。次に目を開けたとき、俺は廃業した診療所の手術台に寝かされていた。胸は裂かれ、冷たい金属の縁を、血がゆっくりと流れていた。
隣の手術台には、先天性の心臓病を抱えた梨奈の年下助手、春日悠斗が横たわっていた。悠斗は目を閉じ、青白い顔をして、胸元はすでに剃られていた。相沢梨奈は俺が贈った白いワンピースを着たまま、手術台のそばに立っていた。その声は、まるで贈り物を選ぶみたいに優しかった。
俺の遺体は、埼玉県北部の廃倉庫で三日間放置されたあと、巡回中の警官に発見された。倉庫からは百八個に切り分けられた肉片が見つかり、法医学者が一日がかりでつなぎ合わせて、ようやくそれが俺だと確認した。葬儀の日、梨奈は母よりも激しく泣き、俺の遺影を抱いたまま、立っていられないほど崩れ落ちていた。
「亮介がいないなら、私も生きていたくない」
悠斗は梨奈の肩を抱いていた。その胸の奥では、俺の心臓が動いている。けれど顔には、深い悲しみに耐えているような表情を貼りつけていた。
「梨奈さん、亮介さんは天国で見ています。ちゃんと生きてください」
誰もが二人に騙された。二人は深く愛し合い、俺はわけも分からず死んだのだと信じていた。けれど俺は、すべてを知っていた。俺は戻ってきたのだ。
婚約披露の前日の夜へ。