あらすじ
大阪で学校の研修に参加しているはずの夫から、ビデオ通話がかかってきた。その途中、画面がふいに数秒だけ揺れた。夫はすぐにスマホを持ち直し、何事もなかったかのように、今日の手術は疲れなかったかと、いつもの穏やかな声で尋ねてきた。私も異変に気づいたそぶりは見せず、彼の話に相づちを打ちながら、さっき保存したスクリーンショットを画像認識アプリにかけた。
スクリーンショットの左下には、最新型らしき変形ロボットのフィギュアが映り込んでいた。画像が少しずつ読み込まれ、やがて検索結果が表示される。それは限定版フィギュアで、価格は八万八千円だった。私はその金額を、しばらく黙って見つめていた。
結婚して八年、修一は私の前ではずっと倹約家だった。自分のワイシャツを一枚買うだけでも迷うような人が、どうして突然、こんな高価なものを買ったのだろう。しかも、子どもを持たない夫婦として生きていくはずの私たちには、まったく必要のない子ども向けの玩具だった。