あらすじ
雪の匂いがする部屋。
村の決まりで鬼の許へ嫁いだ青年は、毎朝、吐く息の白さを数える。
鬼は無口で、彼に触れようともしない。
ただ、窓辺の凍った小さな蕾だけは、決して乱暴には扱わなかった。
それが、この冷え切った関係で唯一、熱を帯びた仕草だった。
青年は最初、それを気まぐれだと思った。
だが、自分が差し出す飯の湯気と、鬼が蕾を撫でる横顔が、いつしか同じ孤独の色に見え始める。
彼らは共に、まだ見ぬ春を待っている。
凍てつく山荘で、ひたすらに、けれど確かに。
この静かな待つ時間だけが、ゆっくりと彼らに感情を芽生えさせる。