あらすじ
婚約が決まった日、兄は少しだけ寂しそうだった。
「おめでとうございます、お兄様」
そう言うと、兄アルフレッドは少し困ったように笑って言った。
「リディア、それは私の台詞だろう」
「でも、お兄様も嬉しいでしょ」
「それは嬉しいさ」
「だってリディアが幸せそうなのだからな」
私は思わず笑った。昔から兄はそういう人。
私が笑えば喜び、泣かされたら烈火の如く怒る。
「だがエドワード殿なら安心だ」
兄は紅茶を口に運びながら言った。
「エド様…とても誠実なお方ですもの」
「ああ」
窓の外を眺める横顔は穏やかだった。
「彼なら君を傷つける事はないだろう」
その言葉に私は小さく笑う。
「もし傷つけたら?」
「誰であろうと許さない」
あまりにも迷いのない即答に、思わず吹き出す。
「お兄様ったら…」
「私は本気だ」
「分かっています」
本気なのが分かるから困るのだ。
思い返せば兄は昔からそうだった。
理不尽を嫌い、弱い者いじめを嫌う。
特に女性に対する暴力や執着を激しく嫌悪していた。
兄は優しくて正しい人。
私を傷つけることなど決してない人。
それが当たり前だった。
とても大好きで自慢の兄だった。
——あの日までは。