あらすじ
山は、人を呼ぶ。
ある者は夢を見て、ある者は帰る場所を失い、ある者はそこで初めて、自分の心の奥底に触れる。
ピレネー山脈で命を落とした兄。
かつて父と登った山に魅せられ、家族の期待を捨てて海外へ渡った彼の死を、妹の花はテレビのニュースで知る。
母は泣き、父は沈黙し、兄の最期に寄り添った女性はただ頭を下げる。
残された者たちは、兄が何を見て、何を選び、どこへ帰りたかったのかを知らないまま、彼の不在と向き合うことになる。
山は命を奪う。けれど時に、死者が見ていた景色を、生者に見せる。
深い森と山々に関わった人々の喪失、記憶、再生を描く連作短編集。