あらすじ
母の葬儀の日、五十二歳の私は二十年ぶりに実家へ戻った。
母とは長く不仲だった。
私は母に愛された記憶がない。
ところが葬儀の帰り、雨粒が母の声で謝り始める。
「ごめんね」
「あなたを、娘だと思えなかった」
「でも、娘じゃなかったから愛せなかったんじゃない」
「愛してしまったから、罰を受けていたの」
父が隠していた古い新聞記事には、四十五年前の水難事故が載っていた。
大雨の日、川に流された二人の少女。
助かった一人と、行方不明になった一人。
行方不明になった少女の名は、雨宮沙和子。
私の名前だった。
私は本当は、隣家の娘・佐伯美雨だった。
母は実の娘を失い、助けた他人の子を「沙和子」として育てた。
だから私を抱きしめなかった。
愛していなかったからではない。
愛してしまう自分を、母自身が許せなかったからだ。
そして雨が最後に告げた真実は、さらに残酷だった。
本物の沙和子は、母に見捨てられたのではない。
私を助けようとして、自分の手を離したのだった。