あらすじ
女性職員の少ない鉄道職場では、休憩時間の恋愛話や憧れの人の話題が時折大きな盛り上がりを見せる。
車掌になって二年ほどが経った頃、市川美咲をはじめとする女性職員たちの間で圧倒的な人気を誇っていたのは、指導車掌の安曇だった。真面目で仕事ができ、後輩への面倒見も良い。優しいだけでなく、必要な時にはきちんと叱る姿勢も信頼を集めており、多くの女性職員たちが彼に憧れを抱いていた。
そんな賑やかな話題を少し離れた場所で聞いていたのが、若手車掌の汐海。彼自身も安曇を尊敬しており、その人気ぶりを当然のことのように受け止めていた。まだ目の前の仕事を覚えることで精一杯だった汐海は、自分が将来どのような存在になるのかなど考えもしない。
やがて乗務を終えた安曇本人が職場へ戻ってくるが、周囲で自分がどれほど慕われているのかをまったく知らないまま、いつも通り仕事に向き合う。その姿に改めて「格好いい人だ」と感じる汐海。
これは、職場で誰からも愛される先輩・安曇の人柄と、そんな先輩の背中を見つめながら成長していた若き日の汐海を描く物語。まだ誰も知らない、数年後に汐海自身もまた後輩たちから憧れの眼差しを向けられる存在になる、その少し前の出来事である。