あらすじ
フューチャーリンクテクノロジー株式会社が東証グロース市場に上場した夜、創業者夫婦である僕と妻は、本来なら並んで祝賀会に出席するはずだった。
東京・丸の内の高級ホテルの宴会場は、白く冷たい照明に照らされ、シャンパンタワーがきらきらと光を反射していた。投資家、メディア、提携先、社員たちが集まり、僕は創業者として壇上に立っていた。だが、隣にいるはずの妻、白石怜奈の席だけが空いていた。
三時間前、怜奈は僕に電話をかけてきた。声はいつものように冷たかった。
「悠真、今夜の祝賀会は一人で何とかして。大阪へ行って、重要な経済事件の証拠を取らなきゃいけないの」
「フューチャーリンクの上場より、大事なのか?」
電話の向こうで、怜奈は一瞬だけ黙った。それから、苛立ちを隠そうともせずに言った。
「佐伯悠真、あなたはもう子どもじゃないでしょう。会社の上場はあなたの仕事。私の依頼人にも、私の人生があるの」