あらすじ
大学入学共通テストの成績を確認したあと、息子の東条蓮の点数は、難関国立大学「東都大学」の出願基準にぎりぎり届く程度だった。夫の東条航平は、出願先を決める大事な手続きを、知り合って一か月しか経っていない受験コンサルタントの白石由奈にすべて任せていた。私がパソコンを開き、出願ページを確認したとき、白石由奈が蓮に出願させていた大学は、たった一校だけだった。
東都大学。
中堅私立大学の滑り止めも、安全校も、万一のための予備案もなかった。
前世の私は、この出願一覧を見た瞬間、必死で二人を止めた。あと数校、せめて滑り止めの私立大学だけでも追加したほうがいいと、何度も何度も説得した。けれど、最初に私へ噛みついてきたのは、ほかでもない息子の蓮だった。
「母さん、由奈先生が優秀だからって嫉妬してるんだろ。これは俺の人生がかかった大事なことなんだ。こんなときまで、くだらない焼きもちを焼くのはやめてくれない?」
白石由奈はそばで口元を押さえ、くすりと笑った。航平はそんな彼女を横目で見て、甘やかすような目を向けていた。三人が並んで立つ姿は、まるで本当の家族のようで、私だけがその場に紛れ込んだ余計者のようだった。
それでも前世の私は、放っておけなかった。仕方なく蓮の出願マイページにログインし、こっそり数校の中堅私立大学を追加した。
結局、蓮は東都大学に落ちた。それでも一校の私立大学には合格し、大学に行けないという最悪の結果だけは避けられた。けれど彼は、そのことを何年も恨み続けた。