あらすじ

廃業を決めた墨田の町工場に、一台の赤錆びたフェアレディZが運び込まれてきた。 持ち込んだのは二十代の若い女・朝倉陽。「父に見せるために直してほしい」——それだけを告げて、翌日もその翌日も工場に来た。 整備士・城戸鉄也、五十八歳。四十年レンチを握り続けた男は、今日で店を閉めるつもりだった。それでも、一九七〇年製のL型エンジンを前にして、言葉を飲んだ。 旋盤職人、板金職人、塗装職人、内装職人——下町の路地裏に、看板も出さずに仕事を続ける職人たちが一人ずつ集まった。誰も多くを語らない。ただ、手を動かした。 だが部品が揃い、車が完成に近づくほど、父親の時間は残り少なくなっていく。 間に合うのか。間に合わなかったとして、それでもこの車は走るべきか。 日本の職人が意地を込めて作った一台が、墨田の朝の光の中を走り出すまでの物語。

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小説を読もう2026/06/22
  • 現在の作品鉄の記憶