あらすじ
【初回7話・不定期更新】
帝国は剣で建国されたらしい。
少なくとも歴史書にはそう書いてある。しかし歴史書を書いたのは法学者ではないので、あまり信用しない方がいい。帝国を本当に動かしているのは、条文の読点を一つ動かして隣国との関税を変え、脚注を一行足して総督を眠れなくし、判例を一つ積み上げて自治州の常識を書き換える、退屈そうな顔をした人種――法学者だからだ。
帝国大学法学部修士課程を卒業して辺境自治州に赴任したこの護民官も、その例外ではなかった。
護民官とは、本来なら式典へ顔を出し、印章を押し、「適法です」と言って帰るだけの役職である。それなのに彼は行政へ口を出し、議会へ口を出し、裁判所へまで口を出す。総督は頭を抱え、法学者は眉をひそめ、市場では魚屋まで法理を語り始める。
誰も剣を抜かない。魔法も飛ばない。それでも一つの解釈が街を揺らし、一つの論理が政治を止め、一つの質問が帝国全体を巻き込んでいく。
法学者とは、世界をあるべき姿へ導く賢者ではない。
全員が自分だけは正しいと信じ、相手の学説へ丁寧に百ページの反論を書き、その結果として国家の運命まで決めてしまう、社会的に少し扱いの難しい生き物である。
これは、そんな危険人物たちの中でも、とりわけ空気を読まない護民官の物語。